偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
その日、静月宮に風変わりな客が訪れた。
中宮に仕える側仕えの女官である。
「十五妃様、お言葉を賜りに参りました」
「……どうぞ、お上がりください」
月鈴は微笑んで迎えたが、女官の表情はどこか探るような色を帯びていた。
「近頃、陛下がたびたびこちらに通われているとか……お喜びのことと存じます」
「ええ……陛下はとてもお優しくしてくださいます」
月鈴は答えながらも、内心で僅かな警戒を走らせていた。
(噂が、表に出てきている……)
その女官は数分だけ滞在し、何の咎めもなく去っていった。
けれど、それは序章に過ぎなかった。