偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
一方、東殿。
紫嶺は、目の前の老宦官に問うていた。
「……静月宮の動きは?」
「はい、既に噂は他妃の間でも囁かれております。『仮面の陛下が誰か』に気づき始めている者も……」
「ふん。そろそろ、芝居の幕を下ろしてやらねばな」
紫嶺は立ち上がった。
「用意せよ。次の十五日――俺が、“本物の皇帝”として静月宮を訪れる」
その声には、揺るぎのない威圧と、何よりも――怒りがこもっていた。