偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
その夜、紫遥は再び仮面をつけて現れた。
月鈴は、微笑むことができなかった。
「……紫遥様。もう、仮面はやめませんか?」
その声は、震えていた。
「周りに気づかれています。今にも誰かが、あなたの正体を……」
「……知っている」
紫遥はゆっくりと仮面を外し、月鈴の手を取った。
「けれど、俺はもう止まれない。おまえを守るためなら、この命を賭ける覚悟はある」
「そんな……そんな、無茶なことを言わないでください!」
「――おまえが、泣くのを見たくない」
その言葉に、月鈴は小さく息を呑んだ。
紫遥の手が、彼女の頬に添えられる。
「俺が、おまえを連れ出す。……この宮から、自由の場所へ」
「……え……?」
「このまま後宮にいれば、おまえはきっと兄に標的にされる。……それが、わかるんだ」
紫遥は、どこか怯えたように言った。
「兄は、俺が得たものすべてを奪う。おまえも、例外ではない」