偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー




 その夜、紫遥は再び仮面をつけて現れた。
 月鈴は、微笑むことができなかった。


「……紫遥様。もう、仮面はやめませんか?」


 その声は、震えていた。
 

「周りに気づかれています。今にも誰かが、あなたの正体を……」

「……知っている」


 紫遥はゆっくりと仮面を外し、月鈴の手を取った。


「けれど、俺はもう止まれない。おまえを守るためなら、この命を賭ける覚悟はある」

「そんな……そんな、無茶なことを言わないでください!」

「――おまえが、泣くのを見たくない」


 その言葉に、月鈴は小さく息を呑んだ。
 紫遥の手が、彼女の頬に添えられる。



「俺が、おまえを連れ出す。……この宮から、自由の場所へ」

「……え……?」

「このまま後宮にいれば、おまえはきっと兄に標的にされる。……それが、わかるんだ」


 紫遥は、どこか怯えたように言った。



「兄は、俺が得たものすべてを奪う。おまえも、例外ではない」




< 46 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop