偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
静月宮に、重苦しい空気が流れていた。
それは、いつもと違う訪問者のせいだった。
「――十五妃殿下、陛下が御出ましでございます」
報せを受けた月鈴は、わずかに眉をひそめた。
(いつもの、紫遥様……ではない)
その直感は、すぐに証明された。
現れた“陛下”は、仮面などつけていない。
金と緋色の衣に、まっすぐな視線。
けれど、そこに宿るのは、紫遥のような優しさではなく、冷徹な威光。
本物の皇帝――紫嶺だった。