偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
第4話『流浪の地、誓いの宵』
薄曇りの夜明け。
静月宮の門を、二人は静かにくぐった。
月鈴の頬に残る涙の跡は、涙声の別れの記憶をそのままに。
けれど、その瞳には決意がきらめいていた。
紫遥は、彼女の手を握りしめた。
身に着けていた冠や装飾はすべて取り払い、二人を繋ぐのは、ただの腕と指だけ。
「……怖くはないか?」
紫遥の声が、朝の気配を震わせた。
「はい……怖いです。でも──」
月鈴の声は震えたが、その瞳は真っ直ぐだった。
「紫遥様となら、どこへでも──」
その言葉を聞いて、紫遥はそっと唇を重ねた。
結婚ではない、“愛と覚悟”の誓い。
それは、ふたりが先へ進むために必要な儀礼だった。