偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
夜、砂原の丘に設えられた小さな祭壇のそばで、二人は互いに寄り添っていた。
祭はまだ始まらず、焚かれた香が月鈴の髪を揺らす。
「紫遥様……あなたとここへ来ることができて……本当に嬉しいです」
「俺もだよ。……だが、安心しすぎないでほしい」
紫遥はぎゅっと月鈴を抱き寄せながら、彼女の耳元で囁いた。
「兄は、もう動き出している。ひとりで後につく気はないが、必ず俺たちを追う」
「……それでも、あなたといる。怖くても──」
月鈴が唇を重ねようとしたその瞬間、背後に影が現れた。航路に先回りしていた黒装束の影──それは、「皇帝側近」の密偵だった。