偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
赤光の郊外、月香の丘と呼ばれる静かな地にて。
紫遥は小さな祭壇を設え、花と酒と香を供えた。
「これは、俺の故郷に伝わる“契りの儀”だ」
「……夫婦として、という意味ですか?」
「それよりも、もっと根深い。“命を分け合う”儀式だ」
月鈴は頷き、膝をついて紫遥と向き合う。香がくゆり、花弁が舞う中、ふたりは指先を重ね合わせた。
指輪も、契約書もいらない。
ただ、唇と想いを交わす――それが、彼らの誓いだった。
「私のすべてを、あなたに捧げます」
「俺も、命ごと、おまえに渡す」
そして、唇が重なった。
儀式の意味を深く理解するには、時間など要らなかった。
その夜、ふたりはひとつの布団の中、言葉を交わさず肌を寄せ合った。
そっと指が触れ、確かめるように頬をなぞり、唇がまた重なる。
これまで抑えていた想いが、堰を切ったように溢れ出す。
「……好きです、紫遥様……誰より、深く……」
「俺も、おまえがすべてだ……誰にも渡さない」
着物の合わせがほどけ、月鈴の白い肌が月光に染まる。紫遥は、まるで宝物に触れるように彼女を抱きしめた。
その夜、ふたりは初めて深く結ばれた。
互いの心も、体も、もう離れられぬほどに。
月光が優しく降り注ぐ中、幾度も名前を呼び、確かめ合った愛。
それは、痛みさえ甘い、愛の頂。