偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー




 沈黙が、満ちた。
 紫遥は、ゆっくりと短剣を抜いた。

「命どころか、“名”も、“国”も捨てた。おまえには、それ以上の証があるのか?」

 その一言が、蒼き獅子の動きを止めた。
 扉が開く音と共に、月鈴が紫遥の姿を見た。


「……紫遥、さま……?」


 その瞬間、涙が頬を伝った。

 蒼き獅子は何も言わず、懐から鍵を取り出し、鎖を解いた。


「行け」

「……なぜ?」

「……兄を止めろ。紫嶺は……“愛”を知らぬ化け物だ。おまえたちが勝たねば、この国は終わる」

 その言葉は、まるで“贖罪”のようだった。



< 66 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop