偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー




 月鈴は、紫鏡の手を取って言う。


「私を、あなたの妃にして――この命、すべてを捧げます」

「……いいのか? この先、道なき道だぞ」

「あなたとなら、私はどこへでも行けます」


 紫嶺は、しばらく二人を見下ろしていたが、やがてその背を向けた。


「……勝手にするがいい。だがこの国に戻ることは許さぬ。おまえたちに、“国”は二度と与えぬ」

「ならば俺たちは、“国”ではなく“絆”を選ぶ」


 その夜、ふたりは再び手を取り、南へと旅立った。
 誰に縛られることもない、ふたりだけの道を歩くために。

 小舟の上、月鈴がそっと紫鏡の手を握る。


「……これから先、何があっても、隣にいてもいいですか?」

「もちろん。おまえは俺の命そのものだ」



 唇がそっと重なり、船は静かに夜の水面を滑っていった。






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