偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
第6話『新天地に咲くは、誓いの華』
大陸の南東、翠耀と呼ばれる国。
かつては小さな商業港だったが、東方の貴族と交易を繰り返し、今では穏やかな城下町へと成長していた。
夜明けの朝靄が海を包む頃、紫鏡と月鈴は小舟から上陸した。
「……穏やかですね」
月鈴は周囲を見回し、紫鏡に目を向ける。
「ここなら……ふたりで、幸せに暮らせるかもしれない」
そう呟いた彼女の瞳に、わずかな緊張と期待が混じっていた。
宿とした木造の館――そこは交易商人が使っていた“客舎(きゃくしゃ)”だった。
家具は質素。だが海風が抜ける縁側があり、庭には小さな菜園も残されていた。
紫鏡が風呂を沸かし、月鈴は残されたローブを干す。
「まるで……故郷のように感じますね」
ほっと息をつく月鈴に、紫鏡は優しく笑った。
「ここが、俺たちの新しい“宮”だ」
その言葉に、彼女はそっと額を寄せた――温かな静かな始まりだった。