偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー



 妃たちはやがて、手伝いとして館へ通い始めた。

 織りの教え、菜園の管理、庭の設え――月鈴は新たな“宮務”に追われながらも、本当に“妻”としての生活を噛み締めていた。

 紫鏡は、そんな彼女をそっと守りながら、“妻としての伴侶”を支えた。

 街の人々も、ふたりを“宮廷夫婦”として認知し始める。

 ある朝、月鈴は菜園で、ふと額を抑えた。
 

「……青く、光って……」


 背後には紫鏡がいた。心配そうな瞳を向ける。
 

「どうした?」
 

 目に浮かぶ涙を、月鈴は振り切るようにそっと微笑んだ。


「……大丈夫です。紫鏡様……私、きっと、大切なことに気づきました」


 その言葉に、紫鏡の目に光がともった。


「――月鈴。もし……」


 それを口にするより先に、月鈴はそっと胸に手を当てた。

「……感じるんです。小さな鼓動を、胸の中で……」


 二人はその日、菜園の縁で、二人きりで語り合った。

 紫鏡が語るのは、姉・紫苑との未来の夢。
 月鈴は、自分と子がこれから育む宮と命――静かだけれど確かな“希望”だった。


「俺たちは……逃げてきたのではなかった。新しい命と、新しい未来に向かって進むために──ここへ来たんだ」

「はい。あなたとなら、私はどこへでも……命を繋ぎます」


 ふたりはそっと唇を重ね、未来への誓いを交わした。




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