偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
そしてある晩、紫鏡のもとに届いた一通の書簡。
それは、帝都からの“密使”によるものだった。
《紫鏡殿。帝政にて改革の兆しあり。
陛下・紫嶺殿の病重く、次代の後継を求む声高まる。
貴殿、帰還を請う――》
筆跡から見て、間違いなく正統派の元老院によるもの。
紫鏡は書簡を持って、月鈴のもとへ向かった。
「……どうすべきか、迷ってるんだ」
彼の言葉に、月鈴は一瞬、怯んだように見えた。
けれど、すぐに微笑んだ。
「あなたが行きたいなら、行ってください。私は、どこにいてもあなたの妻です」
「月鈴……」
「ただ、ひとつだけ。――この命が生まれるその日には、傍にいてください」
その願いは、紫鏡の胸を打ち抜いた。
「……必ず。何があっても、傍に戻る。お前とこの子のもとに」