偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー



「さあ、今日も織りましょう」

「この産着が完成する頃には、赤ちゃんにも会えるかしら」

 館には、笑顔と小さな祈りが、日々積み重なっていった。

 一方、紫鏡は帝都で――長く冷えた玉座の間に、懐かしき臣下たちと対面していた。


「……戻ってくれて、本当に……本当にありがとう、紫鏡様!」

「だが、私は“玉座”には戻らぬ。私はひとりの夫であり、父になる男だ」

「……それでも、民のために。どうか“声”を届けてください」


 紫鏡はしばらく沈黙し、やがて頷いた。


「ならば、こうしよう。民の“声”をすくいあげるために、地方から始めよう。
 俺は、玉座には座らぬ。“支える者”として、動く」


 玉座ではなく、民のそばへ――
 その言葉に、帝都はざわめきながら、確かに希望を感じ始めていた。 


< 78 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop