偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
「さあ、今日も織りましょう」
「この産着が完成する頃には、赤ちゃんにも会えるかしら」
館には、笑顔と小さな祈りが、日々積み重なっていった。
一方、紫鏡は帝都で――長く冷えた玉座の間に、懐かしき臣下たちと対面していた。
「……戻ってくれて、本当に……本当にありがとう、紫鏡様!」
「だが、私は“玉座”には戻らぬ。私はひとりの夫であり、父になる男だ」
「……それでも、民のために。どうか“声”を届けてください」
紫鏡はしばらく沈黙し、やがて頷いた。
「ならば、こうしよう。民の“声”をすくいあげるために、地方から始めよう。
俺は、玉座には座らぬ。“支える者”として、動く」
玉座ではなく、民のそばへ――
その言葉に、帝都はざわめきながら、確かに希望を感じ始めていた。