偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
第7話『民の光、帝を超えて』
淡い朝霧が港を包む頃、紫鏡は市場の通りを歩いていた。
市場には果物屋、陶器屋、刺繍店――それぞれが賑わい、民たちの笑顔がそこかしこに広がる。
「紫鏡様、おはようございます!刺繍の評判、ますます上がってますよ!」
若き商人が声をかけ、露天の布地を指さした。
「皆が喜んでくれる。それが、何より嬉しい」
紫鏡は微笑んで布を撫でた。
月鈴と共に築いた小さな宮は、すでにこの町と結ばれていた。
午後。館の一室には妃たちが集まり、縫い物を進めていた。
黎芳は玄関の簾(すだれ)を刺繍し、麗蓮は壁飾りの色図案を描く。
菖華は庭のレイアウトにこだわり、月鈴は自らの産着を縫う手を止め、皆の様子を見守っていた。