偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
その日の午後。
月鈴が文を届けるために久々に宮廷内の通路を歩いていると、どこからか女官たちの話し声が聞こえてきた。
「ねえ聞いた? また静月宮に陛下がお通いになったんですって」
「あの十五番妃? 毎月たった一度だけなのに、いちばん長く通い続けてるって噂よ?」
「でも、あの妃って、妙におとなしいじゃない? 本当に寵愛されてるのかしら?」
「仮面の陛下も、趣味が変わってらっしゃるのね……」
声は、笑い混じりに遠ざかっていった。
月鈴は立ち止まったまま、そっと唇を噛む。
(……ううん、怒るなんて、おかしいわ。だって、事実だもの)
けれど、どこか胸がざわめいた。
否定されているわけではない。むしろ、ただ「存在を軽んじられた」だけ。
それでも、その軽さが……心を少しだけ、切り裂いた。