偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
紫鏡が帝都との橋渡しに動く間、月鈴たち妃は館の“女性たちの相談所”としての役割を正式に立ち上げていた。
「この館には、“妃”の力がある。――ならば私たちは、その名を正しく使いましょう」
黎芳が提案し、麗蓮と菖華もそれに賛同した。
「“妃”とは、男に愛されるためだけの存在じゃないわ。国の安寧を支える“柱”なのだから」
月鈴も深く頷いた。
妃たちは、かつて帝の寵愛を争った者同士。
けれど今は、紫鏡という一本の柱を中心に、連帯していた。
そうして館には、女性の相談、医療、裁縫、育児支援などができる「多機能支援の場」が誕生する。
紫鏡は、陽白ら旧臣とともに翠耀から帝都へ向かう中継地・広藍(こうらん)に入った。
帝都との距離は一日。だが、そのわずかな距離のあいだにも数多の民の声が溢れていた。
「陛下は近頃、政に出てこなくなったと聞きました」
「農地の配分も止まりがちで……」
「南の領民が逃げてくるようになってます」
紫鏡はそれらを一つひとつ書き留め、陽白に告げた。
「俺たちの改革は、“中央”ではなく“民”の中心から始める。
民の声に、直接応える政を、な」