偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
春。翠耀の館に、新たな建物が完成した。
その中心には、低くて大きな丸い広間がある。
「ここが、“民の声を届ける場所”……」
月鈴が呟いた。
紫鏡は「翠耀民会(すいようみんかい)」と名づけたそれを、帝国で最初の“直接民政の場”としようとしていた。
初日は、近隣の村から選ばれた十人の男女が集まり、意見を述べた。
「医療所の薬が足りません」
「子どもが学べる場所がほしいです」
「税の仕組みをもっと理解したい」
「女性も意見できるのか?」
月鈴と妃たちは、壇上で記録を取り、丁寧に応じていった。
「すべて、帝都に届けます。そして、私たちでできる範囲から始めます」
妃たちの声は、かつての“飾り物”とは程遠い力強さを持っていた。