偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
春の終わり。
玲珠が小さな歩みを踏み出した。
妃たちはそれを囲み、笑い合う。
「ほら、玲珠さま、こっちです!」
「よく歩けたわね、えらいえらい」
月鈴は、紫鏡の手を握る。
「――私、思うの。あの後宮にいた時間も、ここに繋がっていたって」
「ああ。あの寂しさがあったから、今のお前と玲珠がいる。
……そして、俺も変われた」
紫鏡はそっと月鈴を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「次は、家族を増やしてみようか」
「ふふ……玲珠に妹? それとも弟かしら」
笑い声が、翠耀の空に伸びていく。