偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー




 春。隣国・ナザルから使節団が訪れた。
 紫鏡との盟約を結ぶためだ。


「父様の国、見せて!」


 そう言って玲珠が着飾って現れたとき、妃たちは思わず涙ぐんだ。

 月鈴が手を取り、言った。


「あなたの一歩が、未来を照らすのよ」


 紫鏡の腕の中で安心したように頷いた玲珠は、皆の前で小さくお辞儀をした。


「わたし、ここがすき。お母様と、お父様と、みんながいるこのおうちがすきです」


 ナザルの使者は深く頷き、こう返した。


「……国とは、まさにそのようなものなのかもしれません」




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