偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
館の中では、妃たちが次なる一歩を踏み出していた。
黎芳は医療の知識をまとめ「妃のための産医書」を執筆中、麗蓮は女性のための読み書き学校を立ち上げ、少女たちの教師になった。菖華はかつての敵国・金輪の将軍と文通を続けており、和平の可能性を探る外交の端緒となっていた。
「私たちは後宮で“道具”だった。でも、今は“志”を持つ女よ」
月鈴は、その言葉に微笑んだ。
「だからこそ、今の館には“誇り”があるのね」
夜。
玲珠が眠った後、月鈴と紫鏡は静かな庭で語り合っていた。
「帝都がどう動こうと、民は私たちを見ている。
……でも、時に私は怖くなるの。玲珠をまた巻き込んでしまうんじゃないかって」
紫鏡はその手を握った。
「けれど、玲珠はお前を誇りに思う。……俺も」
そして、そっと囁く。
「そろそろ、二人目を考えようか」
「――ふふ、また突然言うのね。……でも、そうね。私も、また抱きしめたい」
月鈴の笑みは、炎よりも温かく、花よりも美しかった。