偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー




 一方――帝都では、紫嶺が密かに退位を表明したという噂が流れはじめていた。


 「新帝の座を、誰が?」
 

 後継者不在の混乱を抑えるために、紫鏡が“民による選出”を示したのではという風説も。

 それを快く思わぬ旧臣たちが動き出し、翠耀に密使が送られる。

 内容は一通の書簡――


『玲珠を、皇女として帝都に迎えるつもりはない』
『翠耀は“裏切りの地”と見做されつつある』
 
 紫鏡は静かに文を閉じ、そして――微笑んだ。


「それなら、それでいい。
 俺たちの娘は、“帝国”の皇女ではない。
 “民の誇り”として生きていけばいいのだから」





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