偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
翠耀の旗が掲げられてから三日後。
帝都からついに「南方駐屯軍」が動いたとの報せが届く。
「大義は、皇女の保護と民政秩序の回復――か」
紫鏡が呟いた。
その名目の裏にあるのは、帝都による“再支配”の動きだった。
だが、紫鏡も月鈴もそれを恐れてはいなかった。
「力を向けられても、私たちは“争わない”。
その代わり、民の声で国を守る」
館の妃たちも、一人として逃げ出そうとはしなかった。
「旗を守るのは、私たちの誇りです」
紫鏡は、民会の臨時集会を開いた。
館の庭、空の下で、玲珠が父母と共に立つ。
「ここには、怖いものがきますか?」
玲珠が聞く。
月鈴は膝をつき、娘の目を見て頷いた。
「来るかもしれない。でも、あなたを守るために皆がいるの」
「だったら、わたし――みんなにお礼、言いたい」
小さな声が、集まった民に響く。
「ありがとう。おかあさんと、おとうさんと、みんなと……ここにいてくれて」
その言葉に、群衆の誰もが涙を流した。
紫鏡は「民による意思表明」を提案する。
「帝都と交渉するにあたり、“我々の意志”が必要だ。
武を持たず、言葉で道を選ぼう」
初めての試み――それは村々から代表を集め、旗の継続を“民の投票”で決めるというものだった。
選挙には、妃たちも参加した。
菖華は、旗の外交的重要性を。
麗蓮は、教育を守るための平和的手段を。
黎芳は、命を守る拠点としての意義を語った。
結果は、圧倒的多数で「旗を守る」に票が集まる。