偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
帝都からの使者は、再び翠耀に赴いた。
彼らは見た――笑顔で歩く民。記者団として活動する少女たち。旗の下で遊ぶ子どもと母親。反逆者の顔などどこにもない、暮らしの姿。
「……これは、“国”などではない」
使者は唇を噛んだが、結局こう伝えた。
「帝都は、これを“地域協定の成立”とみなす。
旗の使用を許可し、軍の撤退を行う」
勝ったのは、力ではなく「生活の実感」だった。
数日後。妃たち、紫鏡、月鈴は館の庭に集まり、旗の前で再び言葉を交わす。
「この旗は、私たちの“暮らし”の象徴。
そして、玲珠とその未来を照らす光」
月鈴がそう語ると、紫鏡は手を伸ばし、彼女の手を取った。
「次は、旗の下で“式”を挙げよう。妃ではなく、“妻”として」
妃たちは涙ぐみ、そして皆で祝福の花を投げた。
玲珠は笑って叫ぶ。
「おかあさん、おとうさん、けっこんするの?」
「ええ、するわよ。今度こそ、本当にね」