偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー




 その月、翠耀で初めての“民式の婚礼”が行われた。
 妃たち、民会、少女たちがそれぞれ花を飾り、月鈴は白と翠の織衣をまとう。


「本日をもって、私は紫鏡の妻となり――そして、国の“灯”となります」


 玲珠が祝辞を読み、会場の民が一斉に拍手した。

 その中で、月鈴と紫鏡は手を取り合い、唇を重ねる。

 後宮では得られなかった“愛”が、ここで形になった。

 季節は巡り、玲珠は七つになった。

 文を書き、語り、人の輪の中で笑う娘を見ながら、月鈴は想う。


(きっと、この子は私たちが築いた“旗の意味”を、次の世へ繋げてくれる)


 紫鏡がそっと寄り添い、囁いた。


「そろそろ、弟か妹の話をしようか」

「……ええ。きっと、玲珠がよき姉になってくれるわ」



 風に揺れる旗の下、家族の笑顔が花のように咲いていた。



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