すべての花へそして君へ③

雪が解けたその場所で


 特別、誰かに連絡しなければいけないというわけでもなく、自由参加で大丈夫とのこと。幸い時間制限もないようなので、ヒナタくんを探しつつのんびりお宝ゲットといこう。
 しかし、ゲームに参加する以上手を抜いてはいられない。まずは、百合ヶ丘全体を知るためにも地図の入手だ。完全アウェー状態は、ここで脱却しておかねば。
 そのためにも一度、タカトに話をしておこう。一応、今夜のわたしのエスコート役だ。急に姿を消すと彼に心配をかけてしまう。開始早々に、姿を消してしまったのはあちらの方だけれど。

 二人で彼を捜しながら廊下を歩いていると、ふとカナデくんが、連絡先は知らないのかと此方に視線を投げてくる。


「知ってるけど、連絡するのってなんか反則な気がしない?」

「アウェーの俺らは、まず地図ゲットしないとスタートラインにも立てないんだけど……」

「それに、折角カナデくんと一緒なんだし」

「珍しい、アオイちゃんが俺にデレるなんて。まだ熱があるのかな」

「それはそうと、なぞなぞわかった?」

「俺がわかるわけないじゃない」


 どうやらわたし、お供の相手を間違えたみたい。彼は微力にもならないそうだ。


「わかるなら、とっくの昔にアオイちゃんが出したなぞなぞも解いてたよー」

「ふむ、それもそうか」

「良くも悪くも、俺らみんな根が素直だから。引っかけ問題とかなぞなぞは、はっきり言って得意じゃないんだよね」

「得意な方が若干名いらっしゃるけど?」


「あれは別格でしょ。俺らなんか足元にも及ばないよ」やれやれと小さく嘆息を付きながら肩を竦めた彼は、自分の足元に視線をやった。
 その視線を追うように、わたしもゆっくりと視線を落とす。彼の見ている革靴は、ぴかぴかに磨かれていた。


『――まだ(、、)人に恨まれるようなこと、した覚えはないよ』


 それだけじゃない。スーツもきっちりと折り目が付いていて下ろし立て。だから、真新しい黒に重みを感じたのだろう。


「着られてるね」

「あ、やっぱり?」

「でも、そのうちばっちり似合うよ。絶対」

「……ありがとう」


 いつまで。若しくは、いつからか。それは、わたしはわからないけれど。
 今はただ、このあまりにも似合っていない彼のスーツ姿を、目に焼き付けておこう。彼にとってスーツは一番の誇りであり、かけがえのない繋がりなのだから。


「さて、問題はこのなぞなぞの答えだけど」


 変な捻りも意地悪もないと考えれば、答えは『春』またはそれらしい場所、ということで間違いないだろう。
 けれど、じゃあその春の場所って? 代表的なのは、桜が咲いてるところだろうと思うけれど。


「でも、百合ヶ丘だよね、ここ」

「わたしもそれが引っ掛かってて……」


 ご存じの通り、一般的に学校に植えてある桜は、卒業シーズンまたは入学シーズンに一気に咲き誇る。基本桜と言われれば春先のイメージが強いが、冬桜とか寒桜とか、冬に咲く桜がないわけではない。
 けれど、ここは百合ヶ丘だ。もし桜自体があったとしても、この時期に咲く品種は恐らくないだろう。桜ヶ丘なら、可能性はまだあったかもしれないが。


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