すべての花へそして君へ③
何か、糸口が見つかりそうだったのに。目に見えて彼は、しょぼんと肩を落としていた。まあなぞなぞだしね。ひとまずは、参考程度までに頭に入れておこう。
「そういえばそうとカナデくん、わたし気になってたことがあるんだけど」
「……ん? 何かあったっけ」
あれだけ意味不明な行動しておいて、よくもまあここまであっけらかんとしていられることよ。寒空の下、バルコニーに一人、隠れて凍えていたじゃない。
「何があったの?」
「ああ、あれね。あれは……」
そこで言葉を慌てて止めた彼は、少し焦った様子でわたしの名前を呼び、かと思ったら何故か壁際へと引っ張り込んだ。
「か、カナデくん?」
「しっ」
体勢を低くした彼は、それだけ言って口の前に人差し指を立てる。何があったのだろうかと、彼の視線を追いかけてみれば……。
「どこに行かれたんですの」
「お約束がまだですわ」
「お待ちになって。私の方が先にあの方と珈琲を飲む約束をしたんですのよ」
「いいえ違いますわ。私の方が先ですわ」
「一緒にダンスを踊ってくださると言ったではないですか」
「ちょっとあなた、勝手にあの方の彼氏面しないでくれませんこと」
そこには、綺麗で可愛い女の人がわんさかわんさか。出てくる出てくる。おー出てくる出てくる。
「アオイちゃんに、聞いて欲しい話があるんだけど」
「いいよ、聞いてあげる」
大きく息を吐いたカナデくんは、その後ぐっと唇を噛み締めて拳を作り、真面目腐った顔付きで至って当たり前のことを呟いた。
「俺が好きなのはユズちゃんただ一人です」
「そうだね」
「さっき言ったこと覚えてる? 男には時に身を投げ打ってでもしなければならない性があるって」
「ナンパでしょ」
「…………」
「…………」
「……え?」
「だから、ナンパでしょ?」
「え。アオイちゃんわかってたの」
「だから言ったでしょ、ほっとこうって。ツバサくんもわかってたよ」
「いやあ、やっぱり可愛い子を見ると声かけずにはいられなくって」
「ふーん」
「別れ際に、今度珈琲の一杯奢らせてもらうよって言ってたんだけど。ここにいる女の子たち、その常套句真に受けちゃって」
「…………」
だから、彼女たちから逃げ回っていると。このへらへら野郎の話を、真面目に聞いたわたしが馬鹿だった。
満場一致で、弁解の余地無し。同情の余地も無し。
「ユズちゃんという彼女がいながらこの仕打ち」
「そんなゴミを見るような目で俺を見ないでッ。そ、それに、これには訳が……!」
――その腐った性根、わたしが叩き直しちゃる。