すべての花へそして君へ③
……したはいいものの。はてさて、肝心の捜し人は何処にいるのやら。
(ここは何処。わたしはあおい……)
しかも大変だ。このままだと負のループに突入だ……!
「……お困りのようですけど、何かあったんですか?」
どうしたものかと一人ため息をついていると、また男の人が話しかけてきた。
胸元に百合の紋章が刺繍してある。どうやら彼は、百合ヶ丘の生徒らしい。
「実は人を捜していまして」
「人? 俺で良ければ、お手伝いしますよ」
「あ、ありがとうございます!」
「……! あ。い、いえ。そんなに喜んでいただけて、光栄……です」
迷子になったとは、さすがに口が裂けても言わなかった。わたしにもプライドがあるのだ、そうプライドが。
事情と捜し人を伝えると、相手の彼は一瞬顔を強張らせていたけれど、一緒に捜してくれるとのこと。
「あ、そういえばあいつ、さっき二階の通りで見かけたような……」
「本当ですか!」
「う、うん。あ、でもいなくて無駄足になったらいけないから、俺が先に行って呼んでくるよ。君はここで……」
「お気遣い有難う御座います。でも大丈夫です。お気持ちだけ」
流石に、わたしの個人的な人捜しにそこまでしてもらうのは申し訳ないし。
残念そうな彼の顔に、今度は別の意味で申し訳なさが募ったけれど、「それじゃあせめてそこまで案内させて?」という言葉には全力で甘えさせてもらうことにした。だって、ここが何処だかわからないんだもん。
階段を上がると、パーティーの賑やかな音が殆ど聞こえなくなる。人気もなくなり、点いている電球も疎らで少し薄暗い。……本当にここに、タカトはいるんだろうか。
「おかしいな。確かこの辺にいたんだけど」
通りに面している扉を一つずつ確かめてみるものの、中はもぬけの殻。鍵がかかっていた部屋も、中からの返事はなかった。
やっぱりここは、反則とか考えてないで、素直に連絡入れるべきかな。何かあった時は連絡しろって言われてるし。
「そういえば、さ」
「……? はい」
「付き合ってるの?」
「……え?」
「あいつと」
「え!?」
どうしたものかと思っていると、まさかの爆弾投下。
いやいやいや。それはないから。それだけはないから。
「じゃ、じゃあ。もしよかったら!」
「えっ?」
彼はわたしの手に、小さな紙切れを握らせ、手を掴んでくる。
タカトが彼氏でないことは否定したが、どうやら彼は、まだ勘違いをしているらしい。
「もも、もしよかったらでいいんで、俺とお茶でもしてくれたらな……って」
「……ち、ちょっと待ってください」
先程の御曹司とは違い、慣れない様子で謙虚に勇気を振り絞っているのを見ると、逆に断るのが難しいし心苦しい。だからといって、断らないわけにはいかないんだけど。
「……あの、大変申し訳ないのですが」
「魂胆が見え見えですねえ」
「「え……?」」