すべての花へそして君へ③

 歩みを止めた彼は、顔を手で覆いながら大きくため息を落とす。そのまま、廊下の壁にもたれかかった。


「立場のある人間たちが、一般人もいるこの場所に一堂に会す機会なんて、そうそうないことなんだよ」

「うん。そうだね」

「なのに誰かさんは、その機会を贅沢にも自己紹介だけに済ますし」

「そ、そんなことは……(確かに、タカトがまだエスコートしてくれていた時は、そんな感じだったけれど)」

「ゲームなんかしてるし」

「そこをつかれると弱いなあ……」

「……はあ」

「……成る程。その自己紹介ゲーム野郎と大して得たものは変わらない、と」

「寧ろそれ以下かも」

「それはそれは。ご愁傷様でございまする」


 ドレスの裾を摘まんで恭しくお辞儀をすると、目の前からは「イエイエドーモ」と面倒くさそうなお返事が。完全にOFFモードらしい。チカくんも少し驚いている様子。


「わたしの扱いも慣れたもんだね」

「はいこれ地図」

「もうちょっと構ってよう。つまんなーい」

「お友達みんなが構ってくれると思ったら大間違いだからね」

「思ってないよ? というかわたしの彼氏さん一番構ってくれないもん」

「ゲームよりも、この会場のどこかにいるその彼氏さんを、探しに行く方が僕は優先するべきだと思うけど」


 ここまでストレートに言われてしまっては、ぐうの音も出ないというものだ。「それについては同感」とかチカくんまで言ってるし。この場に味方はいないようだ。
 黙りを決め込んで、差し出された地図を素直に受け取る。


「でも当たり」

「ん? 何が?」

「今回は豪華賞品用意してるって噂」

「おお! じゃあ余計頑張らないとだ!」


 地図を広げざっと目を通してみるけれど、それらしい場所は見当たらない。そして現在地もわからない……。
 なぞなぞの答えを、一から考え直した方がいいだろうか。


「そもそもどこに行きたいの。僕が案内するのに」

「んー、見たらわかるかなって思ったんだけど」

「わかんない?」

「参考にはなるだろうけど、確実な答えは載ってなさそう」

「ふーん。ちょっとカード見せてくれる?」

「ん? はい、どうぞ」


 束の間顎に手を当て難しそうな顔で悩んだ彼は、何かわかったのか。地図に赤ペンで丸印を書き込んだ。
 覗いてみたけれど、その場所には何も書かれておらず、ただの白い囲いにしか見えない。チカくんと一緒に首を傾げた。


「ここ、今はまだ予定地なんだ」

「予定地?」

「あ、もしかしてさっき言ってたヤツですか」

「そう。交流の証に、来年ここへ小さな桜が届くんだよ」

「……! それ、すっごい素敵なことだよね!」


 それがわかっただけでも、このなぞなぞの賞品と言えなくもないけれど、どうせならこの目でその場所を見てみたい。


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