すべての花へそして君へ③
さらば、朱殷色の君よ
真相が明らかになって一時間後。真実の扉が、今――開かれん。
「……ぅおぉ」
「……魚?」
「喜びを表している」
「それが魚」
「でも夜遅いので、何とか堪えているの図」
「成る程ね」
そして静かに扉が閉められガチャリと鍵が閉まると、再びわたしは、持っていた鍵を使って玄関の扉を開け――
「ねえ、これ何回するの」
「あ、ごめん。もう一回だけ」
「そう言って何回やったっけ」
「えーっと、どうだったかな?」
「……」
「すみませんかれこれ16回やってますごめんなさい」
るのを無闇に繰り返していたけど、今まで付き合ってくれていたヒナタくんの痺れがどうやら切れたようなので、今日はこの辺で手を打つことにする。
「え、何。まだしたりなかったの」
「どーせヒナタくんには、乙女の気持ちがわかりませんよ」
後ろ手に扉を閉めながら、手の平の中で大事に鍵を握る。
自分の家でも嬉しいのに、それが大好きな人のお家なんだぞ? ああ大変。また喜びが溢れて顔がニマニマする。
「わかりませんよ。だってオレ、あんたんちの鍵もらってないもん」
「あ。それもそうだね」
「喜んでいただけたみたいで何よりだけど」
「あ、わかっちゃう? やっぱりわかっちゃうよねー」
あの後、除夜の鐘とパーティー会場から微かに聞こえてくる音楽をBGMに、わたしたちは二人で雪合戦をした。ここでダンスをしないのがらしいというか、なんというか。ま、いいんだ別に。去年の後夜祭で、なんだかんだちょっと踊ってるから。二人とも正体隠してましたけど。
あれからすっかり飲みきってしまったホットワインに、わたしはほんのりほろ酔い状態。ヒナタくんは少し饒舌になったくらいで……全然平気そうだった。
『オレが、今のよりももっと美味しいやつ、作ってあげよっか』
これは、新たな特技を見られるチャンス! ヒナタくんの家で改めて飲み直すことにしたわたしたちは、少し酔いを覚ましてから、お口の堅い百合ヶ丘お抱えのタクシーで帰宅しました。
(文句言いつつも、なんだかんだ16回も付き合ってくれるヒナタくんも大概優しすぎるよね)
ほろ酔いのせいか、嬉しさのせいか。熱くなった頬に手を当て喜びを噛み締めていると、ヒナタくんが小さく噴き出した。
「ん? 何か面白いことあった?」
「だって、開けるたんびに毎回違う表情してんだもん。飽きない飽きない」
「それって、褒められてる?」
「褒めてると言うよりは、渡してよかったってほっとしてるかな」