すべての花へそして君へ③
そのままの体勢でヘッドロックを決められた▼
「そういえば昔、アキラくんと砂浜で技の掛け合いしたっけ」
「おい」
「だって、マザーから話聞いてる時点でアウトだし、マザーからボスの方にも、その連絡は行ってると思うし。ま、大丈夫大丈夫」
「絶対大丈夫じゃない……」
「ただ条件の方がねえ」
「条件?」
マザーは先に、ボスから怒られる役を買って出てくれた。だからわたしも、彼に伝えられた。伝えられるんだ。
(きっとマザーのことだ。多分、本当に全部教えてしまったんだろうし)
だから、本当にもう、これで隠し事は終わり。
「あおい。条件って」
「言ったでしょ? ボスに条件を付けたって」
「言ったけど、でもそれって」
「前にも言ったとおり、仕事の前倒しをするからその後自由な時間を下さいと。まあ結論そういうことなんだけど」
【期間内に全てを満たしたその時は、仕事という拘束を解いてもらうこと】
「……は? 聞いてないけどそこまで」
「今言ったからね」
背後からただならぬ空気が漂ってきているけれど、それについてはあとで愚痴だの文句だの十分言わせてあげることにして。
「仕方がない。今までちょっと格好付けてたけど、ここは潔く本音を言おう。格好悪くても許してくれ」
「格好悪くて全然いいから、回りくどいのはやめて。端的に分かり易く言って」
「……ただ、わたしの勝手な我が儘なんだ」
「我が儘?」
「うん。だって、ヒナタくんと一緒にいたいんだもん」
「……なっ」
取り敢えず、わたしの言いたいことを言わせてもらおう。
「前にも言ったと思うけど、ボスから求められるのは正直、嬉しかった。誰かの幸せのために必要だって言われることが、泣きそうなくらい」
でも、その時も言ったよね。
「でも、一番の最優先事項はそうじゃないから」
だからわたしは、条件を出したんだ。
誰よりも、幸せにしたい人がいるから。その人の笑顔を、ずっとずっと、守っていきたいから。
それはずっと変わらないことだし、これからもずっと変わらない。
「ただね、認めてもらいたかったんだ。わたしにはヒナタくんしかいないってこと。代わりなんていないこと。わたしには君が必要だってこと」
君が、ヒナタくんが、大好きだってこと。
ハッキリと口には出されていないけれど、わたしとヒナタくんの関係を、ボスはきっとあまりよくは思っていない。悪い意味じゃない。わたしたちのことを、すごく心配しているからだ。
嘘は嫌いだし、言いたいことはハッキリ言うし、堪忍袋の緒はすぐ切れるし。かと思えばいろんなことをぶっ飛ばして結論だけを言うような、そんなボスだけど。
ただ、見たくないんだ。つらそうにしているのを。やさしいんだ。本当、バカみたいに。わたしのまわりの人々は、みんなそうなんだ。