すべての花へそして君へ③

 教室に着くと、飛び交う最後の「おはよう」に、思わず笑みがこぼれる。いつもよりみんな、はしゃいでいるみたいだった。


「あ。あっちゃんおはよう!」

「キサちゃん! みんなも! おはよー!!」


 以前付けていた仮面は、もうわたしは持っていない。それを外してくれたのは他でもないみんなであり、そしてわたしを受け入れてくれた。彼らが掬い上げてくれた。
 そんな大切な友人の一人の胸元に、何かが付いている。よく見たら教室にいるみんな付けていた。これは……小さいけど、桜の枝木? 校章の横に付けたらいいのかな。


「なんかさ、昨日までは全然実感わかなかったんだけど、朝来てお祝いの桜が机の上に置いてあって、卒業おめでとうって、言われちゃったらさ……」


 今はいないけれど、教卓の方へと視線を流す彼女の瞳は、やっぱりどこか寂しそうだった。でもすぐに、わたしのそんな心配は杞憂だとわかった。確かな信念が、その奥にはあったから。


「……ん? あっちゃん?」

「ううん、何でもないよ」

「えーなんだろう。気になるー」

「大したことじゃないんだ。ただ、もう心配はいらないんだなって」


 一瞬目を丸くしたキサちゃんだったけど、少し気恥ずかしそうに彼女は笑っていた。


「あたしの心配より、あっちゃんは自分の心配しなきゃ」

「ヒナタくんのことなら、もう喧嘩はしてないよ?」

「違う違う。卒業式の話よ」

「……? なんかあったっけ」

「あれ? 菊ちゃんから聞いてない? あっちゃん出席番号1番になったから、代表で【選択】を理事長に読まれるんだよ? 式で」

「……ん?」


 そがな話は聞いとりませんけど??

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