すべての花へそして君へ③

 ――バンッッ!!


「そがなこと聞いとらんですよ!?」

「――っ!? ごっ、ゴホッ」


 駆け出した先は勿論、不良教師がいる教員室。何故一言も言ってくれなかったんですか!?


「ん? ……あ、忘れてた」

「ポンコツ教師めっ」


 素で出てきたドストレートな悪口に、一瞬「しまった」と思わなくもなかった。けれど、言われた当の本人はというと、何がそこまで可笑しかったのか。腹を抱えて爆笑していた。どうやらとうとう、ドMに目覚めてしまったらしい。


「まさか、お前さんからそんな悪口が聞けるとはな」

「聞きたいんならもっと言ってあげますけど?」


 出された甘いカフェラテを有難く受け取る。「一回で十分」と、キク先生はそのまま窓際の方へと歩いて行く。


「嬉しいんだよ」

(わ、やっぱり目覚めちゃったよこの人)

「二年前に会った時には、思ってもみなかった」

「……」

「いや、一年前はもっとか」

「それは、わたしが手のかかる生徒だったと」

「そうは言ってない」

「そう言ってるように聞こえますけど」


 そして、コーヒーを啜って一言。


「オレの人生至上、一番と確信が持てるほどには、手がかかったくらいでは収まらない生徒だった」

「っ!?」


 危うくカフェラテ噴き出すところだった。
 けど、心当たりが有りすぎて胸が痛い。気付けば自分の胸を押さえていた。

 俯いていた頭に、背後からこつんとカップが当たる。


「だから、いい子に育ってくれて嬉しいんだ」

「……」

「オレの教育の賜物だろ?」

「……それはどうかと」

「おい、なんでだよ。そこは素直に頷いとけよ」

「登場回数増やしてから出直してきてくださーい」


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