すべての花へそして君へ③
「オレに対してはとことん素直じゃねえんだもんな」溜め息混じりの呟きに小さく笑いながら。彼の隣に並び、わたしも窓の外の景色へと視線を移す。
(……わあ……)
門をくぐった時も、綺麗だと思った。けれど、上から見る景色は、それはそれは壮観だった。
学校中を彩る薄紅色の景色。まだ少し寒さが残るというのに、見ているだけでどうしてこうも暖かさを感じるのだろう。
(ずっと、見守っていてくれたのかな。わたしたちのこと)
わたしの編入先がもし、桜でなかったのなら――。
勿論、海棠や桜のシステム【卒業の特典】があったからこそ、それに目を付けて入れられたわけだけれど。……桜でなければ、この景色はきっと見られなかっただろう。
がさがさと、隣の彼は内ポケットから何かを取り出す。
「渡しそびれた」
いい加減な教師は、折りたたまれた封筒を二つ、此方へ寄越してくる。
「にしては、直前過ぎやしませんか」
「普通の授業は来ねえからなあ」
「にしては二つって、少なすぎやしませんか」
「出番減らして頑張ってたんだから許せ」
本音と冗談半分の小言にぼやいた彼は、肩を竦めながら換気扇の下へ。
だから、校内は禁煙なんだって。ま、今日だけは許してあげよう。理事長と一緒になって頑張ってくれたのは、本当なんだろうし。
(にしても、これまた二つときたか)
二つという選択肢に縁が有り過ぎだ。
「じゃあ先生、またあとで」
「おー」
けれど、そんなことをしみじみと思っている時間はわたしには無さそうだ。
卒業式が、刻一刻と迫ってきている中、不良教師のせいで代表とか今知ったし、大急ぎで選ばなきゃなんないし。
(まあ、てっきりその選択肢すらないんじゃないかって思ってたから)
本当、頑張ってくれたんだろうな。
「朝日向」
扉まで行くと、背中に声がかかる。しかし、振り返っても彼は此方を向いてはおらず。ただ、たゆたう煙草の煙を、緩く追いかけていた。
「そいつは、あくまでも可能性」
「……キク先生?」
「以上。さっさと戻れ」
「……はいっ」