すべての花へそして君へ③

「はい。左手もう一回出して」


 動けないわたしに小さく苦笑いしながら、彼はそっと手を取って薬指にそれをはめた。
 そして続けて「こっちは頼むよ? 自分でやるとか空しいから」と、今度は自分の首元を弄って彼はスルリとそれを外し、わたしの手の平に乗せた。


「……」


 この人はあれだ。きっとわたしを殺そうとしているんだ。
 死因は……そう。感動。号泣。あと幸福。

 涙でぼやけた視界を何度も何度も拭いながら、彼から受け取ったそれを、同じ場所へ。そっとはめる。


「まだ学生だから、流石にそこまで立派なもんじゃないし」

「う、ううん。そんなこと、……ない」

「それに、そんなに重いものじゃないから」

「重いなんてそんな」

「指輪なんて、ただ指についてるだけだからそう言ってるだけだし。正直意味的には首輪と大して変わんないし」

「く、首輪……」

「犬にはちゃんと、リードを付けておかないとね」

「い、犬……」


 うん。すぐに迷子になるしね? 間違ってはないから、否定はできないけども。


「だから、必ずオレのところに帰ってくること」

「……ひな」

「これは、その証。あんたのご主人様が誰なのか。あんたが帰ってくる場所はどこなのか」

「……」

「ちゃんとしたのがつくその時まで。しっかり守っておくこと。いい?」

「……!」

「その時くらいは……お願いだから、男らしいことしないでね。オレのプライド優先させてね」

「わっ。わか、た……」


 成る程。プロポーズ云々のことは、もう話題に出さない方がよさそうだ。
 クスリと思わず笑っていると、ポンッと目の前で花が咲いた。驚きは一瞬。すぐにその花に心を奪われる。

 真っ白い薔薇の花言葉は、確か……。


「“約束”ちゃんと“守って”ね」

「……うんっ」


 そして“一輪”の意味は――。


「オレには“あんたしかいない”んだから」

「わたしも! わたしにも、ヒナタくんしかいないよ!」


 また、二人で約束しよう。
 そして、お互いの誓いを叶えていこうね。


「ではでは、その時を楽しみに待っていることにしましょう」

「ちょっと。さっきまで泣いてたよね。立て直すの早くない?」

「でもわたし、あまり待たされるのは好きではないので。その辺はどうぞよろしくお願いしますね」

「……はあ。なるべく善処します」


 大きな溜め息を吐きながら肩を落とす彼。
 わたしは、それを見てクスクスと笑う。どうやら、やっぱりキザなことは性に合わないらしい。耳が真っ赤だ。

 あの時も、わたしの目の前から去った後、こんな風になっていたのかな。見られなかったのがすごく残念だ。


「……何さ」

「なんでもありませーん。……あはっ」


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