すべての花へそして君へ③

 鮮やかなストリートパフォーマンスに、彼のまわりをぐるりと一周した観客たちからコインが飛び交った。
 真っ白な手袋にシルクハット。タキシードを幼いながら着こなしている彼は、恭しくそして指先まで丁寧に、感謝を込めて一礼をする。

 そして小さな魔術師は一枚の白い布を取り出し、シルクハットに仕込んでいたステッキでそれを突く。
 それはショーの締め括り。真っ白な小鳥たちがバサバサバサ――……と音を立てながら羽ばたいていく。


《それでは、紳士淑女の皆々様。再びまたお目にかかれますよう》


 観客がそれに目を向けている間に、魔術師はその言葉を残して姿を消したのだった。


 ――――――…………
 ――――……


「ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー、なな、やー」


 ここは、花の都パリ。石畳が続く露天街の中に、大きなリュックを背負った小さな少年の姿があった。


「んーこれじゃあまだ足りない。仕方ない。また手品用のアイテムともうちょっと難易度の高い本と、あと語学の本も買って勉強だ。また資金集めかあー」


 たくさんのコインが入った袋を鳴らしながら、少年は露天のおばちゃんから買った林檎を頬張り先を見据える。


「……絶対絶対。会いに行くんだ」


 伝えたいことがたくさんある。
 あなたに教えてもらった簡単な手品は、今ではもうお手の物だ。それからもっともっと難しいことができるようになった。もしかしたらもう、あなたのことを追い越しているくらいには、上達しているかもしれない。

 だから、見せたいんだ。あなたのおかげで今、自分がこうしていられることを。
 言いたいんだ。あなたのたった一言が、自分を変えてくれたんだってことを。


「……会いたいなあ」


 少年は、小さな弱音をこぼしながら、ポケットに入った日本の500コインをぎゅっと握り締めた。


《引ったくりよ! 誰か! 誰かその男を捕まえて!》


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