すべての花へそして君へ③
街路樹、街灯、店先。クリスマスを彩るイルミネーションが、街中を賑わせ輝かせている。普段なら人通りの多い、ましてやこんな日は外に出ることすら億劫だ。憂鬱だ。
周りを見渡せば、そこら中イチャついているカップルだらけ。それから楽しそうに声を上げる家族。酒でも入れているのか、友達と馬鹿騒ぎしている奴ら。
正直自分でもどうかしていると思う。けれど、そんな彼らが全然気にならないくらいには、どうやら自分も、相当浮かれているんだろう。
『――今日葵の看病、急な仕事で行けなくなったから、代わりに行ってきてね』
そんな電話が掛かってきた時は、流石に困ったけど。
――――――…………
――――……
「い、いやシントさんちょっと待って」
『まさか断るつもりじゃないよね』
「行けない。普通に考えて行けないから。熱悪化させる。自信がある」
『君に拒否する権利あると思ってるの』
「拒否とかじゃなくて。会いに行くなら、話をするなら、ちゃんとあいつが元気になって、一段落してからって決めてて」
『今更待ってどうするの。ここまで散々焦らして拗らして引っ張ってきたくせに』
「わかってます。でも……」
『あーもう、ぐだぐだうるさい。面倒くさい。いい加減にして。この俺の、最初で最後の気遣い無駄にしたら承知しないから』
――葵に会いたいの。会いたくないの。
それだけが理由で会いに行けるのは、君だけじゃないの。
「シントさん……」
『因みに俺は、今は会いたくないの。寝言で泣きながら誰かさんの名前呼んでる姿を、花咲さんが帰ってくるまで見続けるこっちの身にもなってよ』
「……オレ」
『あ、キャッチが入ったからもう切るね。さっさと行ってさっさと帰ってね。それじゃ』
通話の終わった電話を見つめながら、一つだけ思い出したことがある。絶対メイドの写真、存在忘れてるよあの人。
でも、それを使って脅したところで、彼は諦めてはくれなかっただろう。オレのために、こんなこと頼んだわけじゃないんだから。