すべての花へそして君へ③

 コンコン。


「ひなたくん、あおいちゃんの様子は……?」

「あ、おかえりなさい」


 今眠ったところだと、食事や薬も飲んだことを伝えると、ヒイノさんは静かに頷いて眠る彼女の首元にそっと触れた。「少し熱いけれど、落ち着いてるみたいね」と彼女はほっと息をつく。


「あおいちゃんとお話しした?」

「はい。あ、でも少しくらいしか」

「でも、それだけでも十分嬉しそうよ」


 どういうことだろうかと、寝ている彼女を覗いてみる。まだ頬は赤くつらそうだが、少しだけ優しい寝顔だった。どんな夢を見てるんだか。


「何をお話ししたの?」

「……えっと」

「あら。言えないことなのかしら」

「そうじゃないんです。……そうじゃ、なくて」


 改まって言うこともない。彼女がすでに知っていることを、今聞かされただけで。
 オレは、小さく居住まいを正し、少しだけ頭を下げた。


「あの、ヒイノさんにお願いがあるんですけど」


 ――バチン!!


「いっつ」

「お互いまだ高校生なんだから、節度を守った交際をしなさい。羽目を外しすぎてどうにもならない事態になったらどうするの。そういうことは、きちんと大人になって、自分だけじゃなく相手の責任も負えるようになってから。いいわね」

「い、いやヒイノさん。オレほっぺた抓ってくれって言っただけなんだけど」

「娘をよくも泣かせてくれたわね」

「……すみません」

「ふふっ。一回言ってみたかっただけなの。真に受けちゃ嫌よ?」


 わざわざ部屋を出たと思ったら、彼女は語尾にハートマークが付きそうなほど楽しそうに笑いながら、平手打ちを食らわせた手をひらひらとさせている。
 さすが、子供が子供なら、旦那が旦那なら、嫁も嫁、か。


「夢じゃないってわかった?」

「……はい」


 どこの家でも、母強し、だな。


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