すべての花へそして君へ③
(思い出しただけでまた顔熱くなってきた……)
自分のことなんか誰も眼中にないだろうけれど、マフラーに顔を埋め、再び赤くなってしまった場所を隠す。
あのあとヒイノさんから逃げるように飛び出してきたけど、なんか、有らぬ誤解を招いた気がする。相当目泳いでたもんなあオレ。
(でも、行ってよかった。会えて……よかった)
正直言って、何もなかったに等しいけれど。はっきり言って、よくわからないこと言ってたけど。
でも、それはまた、次会えた時に言うことにしよう。聞いてみることにしよう。今はもう、それだけで十分だ。
「あ、もしもし父さん? ちょっとさ、お願いがあるんだよね。……え。サンタ? もうオレそんな歳じゃないよ」
メリークリスマス、あおい。プレゼント、気に入ってくれるといいけど。
「大至急お願いね。……うん。だから今日はそっち帰るから、母さんにも言っといて。それじゃああとで」
悴む手をダッフルコートのポケットに突っ込みながら、大きく白い息を吐く。
たまには、こんな賑やかな場所も、人が大勢いる場所もいいかもしれない。そう思う反面、どこか物足りないと感じるのは、隣に彼女がいないからだろう。
「彼女ができたっていうのに、なんで家族とクリスマス過ごさないといけないの」
ま、その家族のクリスマスさえ、オレには本当に本当に久し振りだ。これもまた、彼女の困った気遣いとして、有り難く受け取っておこう。そんなつもり無いだろうけど。
「……早くよくなれ」
また来年。そしてこれからずっと。
たくさんの“悪くない時間”を、一緒に過ごそう。
冬の澄んだ空に鏤められた、綺麗に輝く星々に。らしくないけど、そんな小さな願い事をつぶやいて。足早に大勢の人と擦れ違いながら、オレは家路を歩いて行った。