すべての花へそして君へ③
「……これ聞いたら連絡頂戴。できれば今日会って話がしたい」
留守録には一応入れておいたけど、やっぱり忙しいのか、何度電話をかけても彼女がとることはなかった。
(……待ってるだけじゃ、今と何も変わらない)
駅の改札口で静岡方面行きの時間を確認しようと足を向けると、ロータリーの方からクラクションの音が。
何かあったのかと、オレは野次馬根性で来た道を慌てて戻る。
「……つかまえた」
「え?」
その途中で何故か、小さな女の子がオレの足にしがみつくように突撃してきた。……しかも今、捕まえたって言った?
(……この子、どっかで見たことある気が)
そう思っている間に、何気に力持ちの女の子は、こっちに来てとオレを引っ張っていく。
「ととー! つかまえたー!」
「よーしよくやったしー! ご褒美に今日はドライブに連れて行ってやろう!」
オレは、反射的にその場から立ち去ろうとした。
勿論、車から伸びてきた腕に、早々行く手を阻まれてしまったけれど。
「逃げるなんて、酷いんじゃないかな九条くん」
「逃げたんじゃありません、避けたんです」
今……というか、一生会いたくない人に会ったら、誰だって同じ反応をするだろう。
あー嫌なもん見た。やっぱり今日は、あおいに会って癒やされることにしよう、そうしよう。
「……じょーくんもいっしょにどらいぶ?」
「じょ、じょーくん……?」
「いいね! ささ、九条くんどうぞ。帰りはもちろん家まで送るよ」
「いえ、オレは今からちょっと……」
ぐいぐいとオレの服を引っ張る女の子が可愛くて、思わず頭を撫でるとくすぐったそうに笑った。どうやらオレも、あいつにだいぶ影響されたらしい。
「残念だけど、花咲さんちに行っても、葵ちゃんには会えないよ。勿論朝日向さんちもね」
「は? なん、で」
「知りたかったら車に乗るといいよ。別にいいなら、君は一生知らないままでいることになるだろうけど」
「…………」
そう言われたオレに、乗る以外の選択肢はあったのだろうか……。