すべての花へそして君へ③

寒の雨が上がる時――


 ――あったなら、乗り込んで早々、心の底から後悔するようなことはなかったと思う。


「いやっほー!!」

「わあ! はやいはやいっ!」


 そりゃそうでしょうよ。バイパスで100キロ優に超えてんだから。


「っと、そういえば九条くん、ジェットコースターの類いダメなんだっけ」

「じょーくんこわい?」

「……取り敢えず、大丈夫」


 地面に近いところを走っているから、とは言わないでおく。


「無理しないで、怖かったら言うんだよー」

「だいじょうぶだよ! しーがついてるから!」

「……ありがとう」


 こいつ絶対わざとだ。
 わかってはいても怖いのに変わりはないので、オレの膝の上に乗っているしーちゃんを、ぎゅっと抱きしめておいた。

 しかも、これだけでは終わらない。


「んー」

「……どうしたんですか」

「後ろの車、さっきからすごい煽ってくるんだよね」

「え?」


 日が沈み始めた頃、背後にぴったりとついた車が、やけにパッシングしてくるのだ。
 後ろの車には、この車の“子供が乗っていますシール”が、見えていないのだろうか。


「九条くん、しーをよろしくね」

「……えっ」

「俺ちょーっと、昔の血が騒いじゃった」

「む、昔の血って……?」


 振り向きながら車線変更した彼は、にっこりとオレに不気味な笑顔を向けてきた。


「俺、昔ちょっと暴走族齧ってたことがあってね」

「――!?」


 突如始まったカーチェイス。
 オレは、事が終わるまでしーちゃんを抱きかかえたまま死んだように眠ることにしたのだった。

 何度目かの気持ち悪い浮遊感がなくなって恐る恐る目を開けると、いつの間にか車は一般道を走っていた。
 何回頭を打っただろうか。取り敢えず生きててよかった、今すぐあおいに会いたい。


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