すべての花へそして君へ③
白馬の王子は魔王様?
朗らかなある日。時間通りに出勤した一人の真面目な司法修習生は、何故か指導担当弁護士に取り調べを受けるハメになった。
「白状しろ」
「いやだから、俺じゃないですってば」
「ネタはあがっている」
「いやいや、人の話は聞いてくださいって」
現場――武田法律事務所。
事件発生時刻――前日の終業時間から出勤直後。
「何者かが、私の今日の青汁を飲んだ」
(いや、だから好き好んで飲みませんって……)
「昨夜の戸締まりはお前に任せたな」
「そうですね」
「今朝事務所を開けたのはお前だな」
「……そうですね」
「お前以外に誰がいる」
「あの、杏子さん」
「武田先生だ」
「昨夜自分で飲んでましたよ」
「………………んな馬鹿な」
「昨日飲みに行った帰りに事務所寄って」
「………………」
「飲み過ぎたから~……って。ま、結局吐いてましたけど」
「………………」
「思い出しました?」
頭を抱えている彼女は、武田杏子さん。この武田法律事務所の弁護士であり、俺の指導担当弁護士。
ただでさえ多忙な業務の上、指導にも当たらないといけないためすっかり忘れてしまっていたのだろう。お酒も入ってたし。
「……すまない。ここのところ忙しくてな。世話になった」
「いいえ。……何か手が必要なら言ってくださいね。少しは役に立つと思うので」
「なら、ちょっと薬局まで一っ走りしてきてくれ」
「ウコンなら冷蔵庫に入れてますから」
「今日の依頼者の」
「資料は机に詰んでます」
「……お茶を一杯頼めるか」
「あったかいのにします?」
「ああ」と、もう資料に目を落としている彼女は、本当忙しそうだった。なんでも昔、可愛い女の子に厄介事を持ち込まれたとか何とか言ってたけど。
「杜真」
「はい」
「君は、道明寺事件の被害者だったな」
「――――」