すべての花へそして君へ③
あの事件のことは他言無用。一部を除き、関係者及び担当した公安以外に、事の詳細は伏せてある。
「だから君は、弁護士になるんだろう」
「……だからとか関係なく、罪のない人が罰せられるのはおかしいことだと」
「少なからず、あの子は自分を無罪だとは思っていなかったよ」
「――――」
「そして、本当は人生をかけるほどの償いを、たった数ヶ月で成し遂げた。それも死に物狂いで。……それを恋人が知っているのか、そこまでは知りはしないが」
「…………」
それ以上を知らずとも、それまでを知っているということは、彼女もまたあの事件の関係者。
確かに、関係していることは間違いない。ただ、当日はどうしても外せない用事――もとい、正体を隠して現場に乗り込んでいたので、俺らサイドの中にはいなかっただけ。
それにしても、そんな詳細までご存じだったとは。
「彼女はすでにもう過去を振り返ってはいない。前だけを向いて歩いている。……さて、もう一度問おう。お前は、何のために弁護士になる」
ま、それを知っていたから、俺だって彼女を指導担当に希望したんだけど。
「……救いの手を求めている人すべてを、助けることはできません」
「……」
「それでも、自分の手を掴んでくれた人だけでも助けたいと思うのはいけないことですか」
「誰もいけないとは言っていない。……素敵な志だよ」
検察事務官から、弁護士になったあなただから。きっと、誰よりもその目は確かだ。
「いやあ、旦那から『トーマは金目当てで弁護士になるって言ってたから、気を付けろよ』って釘刺されてたんだ」
「何年前の話ですかそれ……」
「ま、一応な。念のためだ」
「……その後夫婦仲は? 楓さんちゃんとお家帰れてます? てかもしかして離婚したんじゃ……。だって、事務所武田ですもんね」
「仕事上、武田の方が動きやすい場合があるから、それを引き続き使っているだけだ。お前に心配されずとも、今は夫婦家族とも関係良好」
「……そうですか」
彼女には、俺の一つ下になる娘さんがいる。あの子と同い年で、友だちの一人。
(……成る程。可愛い女の子からの厄介事っていうのは、そういうことか)
あれ? でもそれならもう、とっくの昔に収束してるんじゃ――。
「時に杜真」
「……? はい」
「お前、結婚はするのか」
「……ハイ?」