すべての花へそして君へ③

 俺は部屋に戻り、パタンと背中で扉を閉めた。
 初恋は超えられないもの。初恋は叶わないもの。前者が何を言いたいのかは、よくわかる。けれど後者は――……。


(身近に叶えちまった奴がいると、信憑性がないというかなんというか)


 羨ましい気持ちは否めない。そんなことを言う俺自身は、前者の方を完全否定しているわけだけど。現在進行中で。
 とうの昔に終わらせた初恋。次も、その次も、なんだかんだでいつの間にか終わっていた。まあ学生の恋愛なんてこんなもんだろ。

 何よりも自信を持って言えることは、これを超えてくる恋はきっと生涯、俺の中には湧き上がらないということ。
 何度目かでようやく出会えた、最高の恋。唯一無二の、最上の人。


「……運命の悪戯とやらで、俺にもちょっとくらいいい思いさせてくれたって……」


 彼女の気持ちは手に入れられなくても。せめて一つくらいは、弟に負けない何かが俺にあればいいのに。

 そんなことを呟いた瞬間。これまた容赦なく自室の扉がバアアアンッと開く。だから、この間も言ったけどせめてノックしろって。


「ツバサくん!」

「……んだよ元気だな」

「うん! だから買い物行こう!」

「いや、だから……って?」

「いいから! さあ! 早く早く!」

「はあっ!? いや、ちょっと待てって!」


 頼むから、一回止まって話を聞いてくれ。
 それでもって、どうしてそんなことになったのか教えてくれ。


「~~っ、わかった! わかったから!!」


 勢いよく引き摺り出され、階段を数段落ちたところでようやく彼女は止まってくれた。振り向いた彼女は、それはそれは嬉しそうで。
 ……なんでだろう。俺は、ひとっつも悪くないのに。不思議そうに見上げてくる彼女に、湧き上がってくる罪悪感は止まりそうになかった。


「……行ってもいいけど、せめて支度くらいはさせてくれ」

「……支度って、さっき外から帰ってきたんじゃ……?」

「女の支度には時間がかかるんだよ」

「へっ?」


 けれどこの選択が……いや、そもそもこいつの誘いを受けたこと自体がまさか、俺の人生をも左右するとは。


 ――バアアンッ!


「できた!?」

「勝手に人の着替え覗いてんじゃないわよ!」


 この時の俺も、それからこいつも。
 誰も、知る由もなかっただろう――――……。


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