すべての花へそして君へ③
シャッター・チャンス
高三の冬。企画していたクリスマスパーティーも、若干名不在だったが無事に終わり。冬休み。
父からのご指名で、年内最後の町内一周挨拶参りに朝から駆り出されていた。初めはあまり気が乗らなかったものの、パーティーに手を貸してくれた花屋や業者のお礼も兼ねることができたので、一度に済んで今はちょっと気分がいい。
「――そうでしたか。……成る程。ありがとうございます。じゃあこの日なんですけど、場所と時間を……」
「……」
「……あ。ツバサくん! お邪魔してます!」
「あ、ああ。お疲れ」
帰ってきて早々、まさか彼女と出会すとは思っていなかったぞ俺は。だから父さん、俺に仕事押しつけ……いやいや、父さんに限って押しつけるようなことはしないから、俺のついでを先読みして頼んだのか。自分の父ながら、食えねえ人だ、全く。
「……あれ。どうかした?」
「……んや。元気そうでよかったと思っただけ」
「あはは……。先日は大変ご迷惑を……」
けれど、最後に彼女と話をしてからまだ数週間と経っていない。
それに、話した内容が内容。俺は正直、まだちょっと顔を合わせづらかったぞ。お前は平気のへっちゃんみたいだけどな。
(……あれは――)
彼女と父さんの間に広げられた資料の数々。それを見ただけで、彼女が一体何をしに来たのか。平静でないといけないのか。すぐに理解できた。
「もう狼狽しねえの」
「し、しないよ! 多分ね!」
「……ふーん。そ」
「信じてないでしょ」
「んや。そんなことねえよ」
“――お前も、余裕がある時に目を通しておきなさい”
俺が渡したファイルも、机の端に置いてある。数週間挟んでまた九条家へと足を運んだのは、どうやら例の仕事の続きをしに来たようだった。
「……無理しねえように」
「ありがとう!」
そのまぶしい笑顔は、前に見た時よりよっぽど顔色もよくて。少し吹っ切れたのかなと。何かいいことでもあったのかなと、安心した。日向の顔付きも、何かちょっと変わってたし。