すべての花へそして君へ③
ショッピングモールに着いて早々、とあることを思い出した。何かってそれは学校だ。冬休みにから年末にかけて、三年生は受験に向け補講が入っていたはずだ。連れ出してしまったけれど、よかったんだろうか。
「大丈夫よ。今日は使いっ走りされてたし」
「けど、いろいろ大丈夫じゃないように見えるよ?」
「……」
「お節介かもしれないけど」
「……そんなことないわよ」
女物の服を手に取りながら、彼は少し申し訳なさげに視線を落とす。
生徒会みんなの将来の話は、いろんな場面で聞く機会があったからある程度なら知っている。けれど、実のところここの兄弟の将来についてはさっぱりだった。
(ヒナタくんは何か考えてそうだけど……)
彼に至っては、全くと言っていいほど見当が付かない。
彼本人も何がしたいのか。何をしたいのか。わたしと一緒で、道に迷っているのかもしれない。それならわたしでよければ力になりたい。そう思っているんだけど。
「……あ。見て。これなんかアンタに似合いそう」
「完全にシーズンオフだよね? サンタの衣装じゃんこれ」
「クリスマス、あんただけ参加できなくて寂しかったんじゃないかと思って。ほら、気分だけでも味わえるじゃない」
「実際にやってたら虚しいだけだよそれ……」
当の本人はこんな調子だし。あんまり周りからヤーヤー言うのもよくないだろうし、これ以上は言わないけどさ。
(心配、してるんだからねこれでも)
「それはそうと、アンタの用事って?」
「ああ、うん。ちょっと調書取るのが長くなりそうだったから、九条家でお昼ご馳走になることになってしまって。その流れで」
まあ、わたしが心配してたところで何も始まらないし! あとはツバサくん本人に任せて、わたしはわたしでやることしないと!
今日はヒナタくん、生徒会の仕事で朝から出かけてるし。その後も二年生たちみんなで集まって、どこかで男子会開くらしいし。
「もし帰ってきたとしても、わたしの“忍法、壁に飛び移る”で対処するから大丈夫!」
「それ困るの周りの人間だから。アンタは平気でしょうけど、こっちは笑い堪えるので必死なのよ」
「あ! そうそう! あの後ツバサくんに言われて家系図調べてみたんだけど、なんとビックリ!」
「それで? どうせ母さんに、アタシと足りないもの買い足しに行ってこいって言われたんでしょ」
「おお正解! ちなみに、お昼は親子丼にするって! それとそれと、出たついでにわたしの仕事道具もちょっと買い足しときたいなと思ってるんだけど、まあそれはいいんだ。それでね! わたしの家系図」
「親子丼ってことは、ないのは卵ね。アタシも買い足りないものもあったからちょうどいいわ」
と、長い黒髪を靡かせて、彼はすたすたと目的地を目指そうと歩き出す。
そこまで推理するなんて、流石だ。そしてここまでスルーするなんて、……さ、さすがだ。