すべての花へそして君へ③
もう全然聞いてくれる気配がなかったので、家系図の件はまた気分が乗ってる時にでも聞いてもらおうと思う。卵は問答無用で後回しになった。
「アンタの買い物は?」
「わたしは、新しいスーツとフォーマルウェアと、あと普通の仕事着と普段着と下着」
「要は服一式、ってことね」
「そうとも言う~」
気の抜けた返事に、やれやれと肩を落とされたけれど。一度だけちらりと時計を見た彼は、頭の中に今後の予定を算段したようだ。
「じゃあ行くわよ。まずはスーツから」
――――――…………
――――……
スーツは割と早くに決まったけれど、なかなか決まらないのがフォーマルウェアだ。パンツタイプにするか、スカートにするか。透け感が綺麗だからレースにするか、それともフレアにするか、タイトにするか。フォーマルと言ってもいろんな種類があるからいつも困る。服選びだけは、本当に苦手だ。
「なかなか決まらないのね」
「んーどれも素敵に見えて」
「実際に着てみるとまた違うわよ。気になったのあったら片っ端から着てみるのも有りね」
「気になるもの気になるもの……」
しかし、選択肢が多すぎるので、その気になるものすら見つけられないという事態に、ただいま陥っておるんですわ。選択の範囲が広いのは嬉しいことだけど、寧ろ狭めてくれた方が有り難いと思う人は、きっとわたし以外にもいるだろう。
「いつ着る予定なの?」
「今度、小鳥遊主催の船上パーティーがあるんだけど……」
「パーティー用ね」
「行けない確率の方が高いんだけど、もし行けたら……と思って」
「その一回ぽっきりでドレスはポイ?」
「まさか!」
「お金持ちなら普通にあるでしょ? クローゼットがドレスギッシリとか」
「まあ、アンタはそんなことしないと思ってたけど」と言った彼は、何着かのドレスを指差した。
「その時の流行とかもあるけど、要はアンタが似合うものを着るべきね。悩むなら、その場の雰囲気に合わせて。いい印象を持って欲しいなら、相手の好みの色やポイントを入れたらいいんじゃない?」
そうして彼が目星をつけてくれたのは、ほとんど似たような型のドレス。綺麗めと言うよりは、少し幼さの残る可愛い系。けれど色味はどれも深く、可愛いと一言では言い切れないドレスばかりで、羽織るものやアクセサリーを変えれば印象ががらりと変わりそうだ。
その中でわたしの目に止まったのは、深い緑色の、肩口にレースがあしらわれたドレス。一際素敵に見え、一目見て気に入ってしまった。
「まずは着てみてからよ」
そういうツバサくんの中でも、答えは決まっているようだった。