すべての花へそして君へ③
あの後フォーマルは即買いとなったものの、その後普段着でお互い、ああでもないこうでもないと言いながら服を当てること約一時間。なんとか無事に、下着以外の買い物が終了した。
そして、ツバサくん激推しの赤と白のドット柄スカート。絶対サンタさん意識してるし、どこで着るのこんな主張が激しいヤツ。普段使いはちょっと難しいかもしれないけれど、なんだかんだで似合ってしまったからこれはこれで良しとした。
彼の様子を見ていて思ったけれど、どうやら彼の買い足りないものも服だったらしい。気付けば両手は、沢山のショップの紙袋でいっぱいになっていた。どうやら散財は、彼のストレス解消方法のようだ。
「……っと、こうしちゃいられない」
気が付けばお昼の12時半。ワカバさんは遅めで大丈夫だからと言っていたけれど、流石にそろそろ帰らないと。致し方ないが、下着はまた今度にしよう。
卵も買い終わりショッピングモールを出ると、冷たい風がビューッと強く吹き付け髪を攫った。
「アンタそういえば、風邪引いてたんだったわね。大丈夫?」
「いやいやいや、ツバサくん知ってるかい? 馬鹿は風邪引かないんだよ」
「自分で言って虚しくないの」
「いやーわたしもビックリしたよ! 今まで風邪なんか引いたことなかったからね!」
「そう、じゃあ根っからの馬鹿なのね」と、やれやれ肩を落とされてしまった。自分で言い出した分、否定は勿論突っ込みもできないのは、なんというかとてもつまらなかった。
「風邪は引き始めが肝心だけど、治ってもしばらくは無理しないのよ?」
「うんっ。心配どうもです!」
それから、先程まで九条家で取れた調書の整理と、次に聞く質問を頭の中で高速確認をしていると、トントンと控えめに肩を叩かれた。
え、すごい、超高速変顔をしていたわたしに声をかけてくるとは、何という勇者様。あなたは一体誰でございましょうか。
お馬鹿炸裂で振り向いたそこに立っていたのはなんと、ツバサくんに負けず劣らずの、長身美女だった。短く清潔感のあるショートカットに、はっきりとした顔立ち。色の白い肌色に、真っ赤な口紅がよく映えていた。そして、黒いパンツに白いシャツ、丈の長いダークブラウンのコートにグレーのマフラー。そのどれもに色味という色味はないのに、その人にはそれがとてもよく似合っていて、決して地味には見えなかった。寧ろ目立つ存在にさえ感じた。
それはやはりこの、男性に負けず劣らずの長身に、美女というダブルパンチのせいなのだろう。
あまりの美しさに思わず見惚れていると、にこりと笑った彼女はわたしたちに、一枚の名刺を差し出してきた。
それを見たわたしたちは、言葉を失った。