すべての花へそして君へ③
カーテンの奥から出てきた人がツバサくんを連れて行って数分後、長身の女性が戻ってくる。真っ黒で大きなカメラを首に提げ、片手には手帳とペン。他には手に持っていないようだったが、不自然にポケットが膨らんでいた。
用意されたテーブルに着かされたわたしは、すぐに最善の行動ができるよう身構える。
「……あら、私もしかして、警戒されてる?」
「するなという方が無理だと思いますよ」
「とってもいい瞳してるわ、強気で真っ直ぐで……淋しくてたまらないって色してる」
「どういう意味ですか」
「私ね、そういう子ほど苛めたくて仕方がないの」
彼女はその長い指先を、わたしの顎にかけた。そして彼女がそれを上に動かすと、わたしも上を向かされる体勢になる。
「そうしていられるのも今のうちよ。それが壊れる瞬間こそ、私の大好物なのだから」
手足が縛られているわけではない。猿轡を填められているわけでもない。
それでも、何もできないのが、ただただ悔しかった。
「でも、あなたを壊してしまうのはなんだか勿体ない気がするわ。王子に寵愛された美しい姫君を、折角横取りしたんですもの」
「……へっ!? ちょ、やめ」
「君が嫌と言うほど苛めてしまうのもいいけれど、私の指先一つで啼く可愛い声も聞いてみたくなった」
「は、離れ」
グッと顔を近付けてきた彼女に、思わずこの石頭で頭突きでもしてしまおうかと思ったときだった。
「苛めるのはその辺にしておいてもらえませんか」
大きな手の平が、彼女からわたしを引き剥がしてくれた。
「ツバサく――……ほへ?」
心配していた本人が無事だと知り喜んでいたのも束の間、抱き支えてくれた彼を見上げて、わたしは思わず気の抜けた声を上げてしまった。けれど、それも無理ないことだと思う。
「あ、あれか。これも一種の寵愛……」
「違うわよ阿呆」
「阿呆じゃないもん! 馬鹿だもん!」
「あーはいはい馬鹿野郎ね」
だって、さっきよりも物凄く綺麗になっているのだ。
化粧もそうだが衣装もチェンジしているし、女装しても制服以外履きたがらないスカートまで……タイトか、似合うな。
「……取り敢えず、何もされてない?」
「エエ、ワタシハネ」