すべての花へそして君へ③

 君の方はいろいろされてしまったみたいだけどね。カーテンの向こうで何してたのツバサくん。
 けれどわたしたちの遣り取りに、一人だけ楽しそうに笑っている人がいた。


「言うこと聞けば、彼女には何もしないんでしたよね」

「えっ。そんなこと言われたの?」


 改めて、彼女へと向き直る。すると真っ赤な唇をゆっくりと引き伸ばし、優艶に彼女は笑った。


「ええ、そうね。……やっぱり私の目に狂いはなかったわ」


 彼に近付き、先程わたしにしたように顎にそっと指をかけた。


「次は何をしたら解放してくれるんですか」

「ちょっと、何勝手に言って……」

「アンタは黙ってなさい」

「んぐっ!」


 わたしの口を塞ぎながら睨み付ける彼の瞳は、純粋な綺麗さと冷徹が混在していた。緊張感がないと言われても仕方がないけれど。それが余計、彼の真の美しさを引き立てているようにも見えた。


「いい瞳。従順に従う子も嫌いじゃないわよ」


 けれど、そう見えていたのはわたしだけではなかったようだ。


 ――――――…………
 ――――……


「もうちょっと顎引いて左斜め下に……そうそう! そのまま目線は流すようにこっち」


 一体、何がどうなって。


「次は右斜め下! 向いたまま手をクロスさせて……指先まで意識!」


 というか、何が始まったんですか何が。


「じゃあゆっくり左手で髪を耳にかけて……で、ゆーっくりこっちを向いて……そう!! やっぱり上手いじゃないか翼!」


 知り合いだったんかーい。


 彼らの撮影現場を見ながら、わたしはぽかーんと口を開けていた。

 テーブルの上には、お客様を丁重にお持て成しと言わんばかりに、洋菓子和菓子スナック菓子、コーヒー紅茶緑茶麦茶、知恵の輪オセロゲームトランプ、持っているだけで癒やされる可愛いペンギンのビーズクッション。
 取り敢えずペンギンを持った。癒やされた。暇なのでトランプでピラミッドを作ることにした。風で倒れた。……責任者を呼べ!


「ごめんなさいね」

「わあああ違うんですすみませんごめんなさい! そんなつもりじゃなかったんですー……!」

「え?」

「……はっ! い、いえすみません、なんでもありません……」


 ウエストポーチを下げた彼女は、先程ツバサくんを連れて行った人だった。謝辞は素直に受け取っておこうね、うん。


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