すべての花へそして君へ③
「いいじゃねえの。年上美女の熱いアプローチ、受けちまえよ。んで、そのままその先まで行っちまえ羨ましい奴め。やっぱ顔がいいと寄ってくる女もいい女なのかねえ」
「……菊」
「ん? どした。あ、今のキサには内緒な」
「わかってないみたいだから言っとくけど、この人の名前、ユウじゃなくてマサルだから」
「……」
「男だよ、この人」
「……マジでキサには内緒な」
「んじゃ、交換条件な」
「今すぐにその写真消せ」と一言どすを利かせば、それについては難なく無事解決した。問題は――……。
『――ねえ君、モデルとか興味ない?』
両親に恵まれたおかげか。昔から、容姿には困ったことがなかった。
強いて言うなら、町中で知らない人に声を掛けられることくらい。それも、一言『すみません。興味ないので』と言ってしまえば、大した苦労はなかった。
『悪いけど、そんな奴らと一緒にしてくれるな』
……たった一人を除いては。
「……俺の、世界か」
別に、誰かに見られることが嫌いなわけじゃない。父のように、政治を学ぶのだって、嫌いなわけじゃない。
でも、どうせやるなら、自分がやりたいことをやってる方が、ずっといい。そう、思っていた。
「……ま。まずはもう一回会ってみるこった」
「ああ。……そうするよ」
俺をそっちの世界に連れて行って、一体どうするつもりなのか。
あの人の考えも、ちゃんと知るために。
――――――…………
――――……
『ねえ君、モデルとか興味ない?』
――またか、と思った。
『ありません』
『もしかして、この手の勧誘は慣れっこかな』
『そうですね』
『はは、正直』
隠したところでしょうがない。それに、悪質でも悪質じゃなくても、そういう気は更々ないし、さっさと断っていた方が相手のためだ。
けれどその人は、素っ気ない態度に動じることなく俺の横をついて回った。
『その時さ、どんなふうに言われた?』
『……は? どんなふう……って』
寧ろ、それを言うのはそちら側じゃないんだろうか。言っても言わなくても、どこまでも追いかけてくるその人に、俺は痺れを切らして少しずつ話し始めた。
『……人気者になりたくないか、とか。芸能人で好きな人いないか。会えるチャンスかもよ、とか。テレビや雑誌に出たって、みんなに自慢できるよとか』